Let's 富士登山


「いーもーこっ」
「何ですか太子、カレー臭いです」
「えぇ!?ちょっ、いきなり酷くない?」
「あっすいません。本音がポロリと…」
「何いっけね、みたいな顔してんの!?今日の妹子ホントに酷いよ!そら君みたいだよ!?」
「誰ですかそら君て。…はぁ、で、何のようですか?今仕事が溜まってて忙しいんですよ」

「あ、それで機嫌悪かったのか。うんあのね…富士山行かない?」
「今仕事溜まってて忙しいって言いましたよね!?」


 * * * * *


「そもそもどうやって行くんですか?徒歩だとかなり時間掛かりますよ?」

 くそう、結局押し切られてしまった。仕事どうしよう。

「大丈夫大丈夫。空飛んでいくから」

太子はムカツク顔で言い切った。へーって、ん?あれ?

「はいぃぃぃ!?何言ってんですか太子。正気ですか!?」
「し、失礼なことを言うな!私はいつだって正気だ!」

あ、泣き出した。拗ねた顔したって可愛くないですよ太子。

「そんなこと言うと妹子は連れていってやんないぞ!せっかくフィッシュ竹中さんが乗せてってくれるのに」
「まかせろイナフ!」
「竹中さんいつの間に!?えぇっ、竹中さん空飛べるんですか!?っていうかまた名前間違ってるし!」

いろいろ突然すぎて僕は完全にパニックに陥った。竹中さんが落ち着けイナフとか言ってるけど全然耳に届かない。ん?太子が竹中さんに何か耳打ちしてる。竹中さんが頷いたと思ったら…後ろから羽交い絞めにされた。

「ちょっ、何するんですか竹中さぐふっ」

強い衝撃が走る。竹中さんに気をとられている間に、太子にみぞおちを思いっきり殴られたのだ。ちくしょうアホ太子……。僕の意識はそこで跡絶えた。


 * * * * *


 「ハッ」目が覚めて最初に感じたのはみぞおちの鋭い痛み。

「いたた…」

思いっきり殴りやがってクソ太子が。何であんな人が聖徳太子なんだろ?竹中さんもよく付き合ってられるな。そういえばさっき竹中さんの背中に乗って空飛ぶ夢を見たんだけど…疲れてるのかな。あ、そんなことより、此処は何処なんだ?僕はそこでやっと周りの景色に目を向・・け・・

「え…ええええぇぇえええええ!?」


見えたのは溶岩がゴロゴロと転がる噴火口と、遥か下に広がる城下町でした。って

「なんで!?」

ま、まさか夢じゃなかった?

「フフフ…気づいたか妹子」
「イナフ」

突如聞こえた声に慌てて振り向く。

「竹中さん!…ついでに太子」
「ついで!?太子ショック!!」
「一体どういうことなんですか?」
「無視!?ちょっ妹子!」

うざ…。涙目で見ないで下さい。可愛くないですって。だいたいまだ殴ったこと怒ってるんですよ。

「…で、どういうことなんですか太子」
「!!…ふっふっふ、妹子、何を隠そう此処は…富士山だ!!」
「知ってますよ!!」


 * * * * * 


「えっ、し、知ってたの?」

物凄くおろおろしだす太子。この人に聞いた僕が馬鹿だった。思わずため息を漏らす。

「あっ!なんだその呆れた顔は!も、もう妹子なんか知らん!!」

そう叫ぶなり走り出してしまった太子を見て、もう一度ため息をつく。だけどほっとくわけにもいかない。仕方なく追いかけようとしたそのとき。

くげろん
「ぎゃぁぁぁぁぁ」

ありえない音と悲鳴を聞いて太子の方を見ると、これまたありえない方向に太子の足首が向いていた。多分走ってる途中でこけたんだろう。

「太子!大丈夫ですか!?」

さすがに心配になって駆け寄ろうとする。が、

「い、妹子なんかに頼らなくても平気だ!うおお目覚めろ私の何かぁ!!」

意地になった太子は(アホなことを叫びながら)けんけんで進もうとする。しかし当然、すぐによろける。そしてその結果―落ちた。噴火口に。

「た、太子!?」

慌てて噴火口を覗き込む。よかった。フチに掴まって何とか無事だ。

「あばばばば熱い熱い!!助けてマーフィー君!」
「誰ですかマーフィー君て!!このやり取り今日二回目ですよ!!」

まったく問題ばかり起こして。何がしたいんですかあんたは。

「そう言うなイナフ」

…すいません竹中さん。いたんですか。っていうか今心読みました?

「今日のことは全て、仕事詰めで疲れているお前を休ませてやりたいと太子が考えたことなんだ」
「え…」

太子が、僕のために?…きゅん。いやいやいやいや、きゅんて何だ。思わず必死に這い上がろうとしている太子を見る。

「ハァ、仕方ないですね。…ほら、掴まって下さい」
「妹子!」

差し出した手を、太子が嬉しそうに取る。機嫌はもうなおったようだ。単純だと思う。そしてその笑顔を見て、つられて笑ってしまう自分もまた単純だ。

「あ」

そんなことを考えていたせいか、手の力が一瞬ゆるんでしまった。やばい、このままじゃ聖徳太子のからあげができあがってしまう!!

「た、太子ジャーンプ!」

大使はマ○オの如く壁を蹴って飛んだ。その勢いのまま噴火口を脱出し、今度は…崖から落ちていく。

「太子ー!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「まかせろ!」

竹中さん!?太子を追う様に飛び降りた竹中さんは、太子を追い越して…

「どわ!?」

せ、背中でキャッチ!?さすが竹中さん?なんか飛んでるし。ん?下に人だかりができてる。

「あれは何だ!?」
「鳥だ!!」
「龍だ!!」
「いや、聖徳太子だ!!」


 * * * * * 


―この日の出来事が、『聖徳太子、天駆ける馬に乗り富士の山に参ず』という後世に残る有名な逸話になったとかならなかったとか。






End